2026年10月15日、武蔵野市議会総務委員会の行政視察で大阪府大東市を訪れた。調査事項は「宿泊を伴う防災訓練について」。危機管理室から、2022年度と2026年度に実施した訓練の内容、参加者の反応、実施後に見えた課題について説明を受けた。

武蔵野市でも、自主防災組織やおやじの会などが宿泊を伴う訓練を行っている。今回は、市が主導して実施することで何を確かめ、行政の備えや避難所運営の改善にどうつなげているかを調査した。訓練当日の見学ではなく、配布資料や記録をもとに、実施方法と成果を聞く視察である。
停電した体育館で避難所を開設する
2022年度の訓練は、10月1日午後5時から翌2日午前8時まで、南郷中学校で実施した。主に自主防災組織から約100人が参加し、避難所の開設や備蓄資機材の使用、保存食の実食、宿泊を体験した。
背景には、コロナ禍に対応してパーテーションやベッドなどの備蓄が増え、避難所の環境が変わってきたことがある。市に何が用意されているかを知り、実際に組み立て、使ってもらう機会として企画したという。
訓練では体育館の照明を消し、停電を想定した状態でパーテーションやベッドを設置した。明るい場所なら確認しやすい部品や手順も、暗い中では勝手が違う。投光器や懐中電灯で照らしながら作業する難しさを体験した。
給水車の水を使って湯を沸かし、保存食を食べる訓練も行った。市の当時の発表でも、ライフラインが途絶した状況での避難所運営や、家庭の備えを確認することが目的とされている。
資機材を備蓄していても、使い方が分からなければ、災害時にすぐ役立てることは難しい。夜間の開設まで試すことで、備える側も使う側も、必要な作業を具体的に確認できる。
子育て世代にも参加を広げる
2026年度は9月12日午後3時から翌13日午前8時まで、谷川中学校で実施した。資料によれば、自主防災組織と一般参加を合わせて約250人が参加し、うち約90人が宿泊した。
前回は地域の防災活動を担う人が中心だったが、今回は子育て世代にも参加してもらうため、子ども向けの内容を充実させた。消防服の試着、消火器の使用、VR体験などに加え、夜には校舎を使った探検や謎解きを用意した。
子どもが参加したいと思う企画をきっかけに、保護者にも来てもらう狙いだ。子どもが校舎で活動する時間には、大人が体育館で避難所のレイアウトや運営を考えるワークショップを行った。
その後、パーテーションや簡易ベッドを組み立てて就寝し、翌朝は体操、朝食、撤収まで行う。市の公式案内では日帰り参加も認めており、宿泊できる人だけに参加を限定していない。
トイレと食事を実際に試す
2026年度の訓練では、午後3時から6時までトイレと水道の使用を制限した。説明では、学校の既存の便器に袋をかけ、凝固剤を使う体験を行ったという。
携帯トイレを用意していても、袋の掛け方や処理の手順まで試しているとは限らない。避難所での体験を通して、自宅にも必要な備えだと知ってもらい、家庭での準備を促している。
食事は備蓄食を基本としながら、一般の食品を工夫して食べる方法も紹介した。資料にはカレースープや、菓子を使ったポテトサラダの例がある。新聞紙を使った食器づくりも行い、水が使えない中で食器を洗わずに済ませる工夫を伝えた。
備蓄食の管理については、賞味期限が近づいたものを地域の訓練などで活用する一方、使い切ることだけを優先できない難しさも説明された。更新前に備蓄を減らしたとき、災害が発生する可能性もある。食品ロスを抑えながら、必要量を確保し続けることが課題になる。
一晩を過ごして分かること
参加者の声として、パーテーションによってプライバシーが確保されることを喜ぶ意見が紹介された。一方、エアコンが効きすぎて寒かったという意見もあった。
昼間に短時間滞在するだけでは、就寝時の寒さや寝具の使い心地までは分かりにくい。空調が設置されていることに加え、一晩を通してどう運転するか、何を持参すればよいかも確認することになる。
パーテーションの形状についても質疑があった。大東市では、プライバシーとともに、避難している人の様子を把握できることも考えているという。周囲から見えにくくすることと、体調の変化などに気づけることを、運営の中でどう両立させるかという問題だ。
簡易ベッドは起き上がりやすさなどの点で高齢者にも利点があるが、予算や配備数には限りがある。誰に優先して使ってもらうかも含め、資機材の整備と使い方を合わせて考える必要がある。
市民と職員が避難所運営を考える
訓練では、資機材の操作とともに、避難所の運営を考える時間を設けている。2022年度は避難所運営ゲームのHUG、2026年度はクロスロードゲームなどを行った。
説明では、高齢者が過ごす場所とトイレとの位置関係、女性への配慮、生活に必要な場所の配置などを検討したという。ペットを連れて避難してきた場合の対応も、これまでの訓練で話題になった。
災害時には、市職員だけで避難所の仕事を全て担うことは難しい。市民にも運営への参加を考えてもらうには、どのような仕事や判断が必要になるかを知る機会が要る。
学校に普段からある備品の活用も紹介された。卓球台を簡易的な目隠しに使うなど、日常の物を災害時にも役立てる「フェーズフリー」の考え方だ。学校の物を自由に使えるという意味ではなく、施設側と相談して活用する例として示された。
2026年度は商工会議所、LPガス協会、大学、気象台、防災関連企業なども協力した。応急手当、防災啓発、資機材の紹介などを、地域の団体や専門家が担っている。
経験を地域にどう広げるか
質疑では、訓練で得た経験を参加者以外にも広げることが課題として挙がった。
自主防災組織の代表者が参加すれば、地域へ持ち帰って伝えてもらえるという期待はある。しかし、体験した人が限られ、時間がたてば記憶も薄れる。今回は一般参加、特に子育て世代へ対象を広げる工夫を行った。
防災マップにも避難所の設備などをイラストで示し、生活の様子をイメージしやすくしているという。訓練に来なかった人にも、何が用意され、何を自分で備える必要があるかを伝えている。
市の防災アプリについても説明を受けた。市の防災システムと連動し、避難情報や避難所の開設・混雑状況などを確認できる。市が把握した情報を住民へ届ける手段として、その運用も聞いた。
市が主導する宿泊を伴う防災訓練の役割
武蔵野市でも、自主防災組織やおやじの会などによる宿泊訓練が行われている。地域の人が顔を合わせ、身近な施設で一晩を過ごす経験は、災害時の協力関係を考えるうえでも意味がある。
そのうえで、市が主導する訓練には、市の設備や資機材を検証し、整備や運用の改善へつなげる役割がある。
大東市では、市が配備するベッドやパーテーション、トイレ、発電機などを実際に使い、参加者の反応を確かめている。市民への啓発に加え、行政も自分たちの備えを点検する機会になっている。
武蔵野市で考えるなら、地域で既に行われている訓練の内容や、そこで困ったことを聞くところから始めたい。その経験を踏まえ、市として検証すべき項目を整理する必要がある。暗い中での設営、携帯トイレの使用、就寝時の空調、夜間の見回りなど、実際に試すことで分かる課題がある。
また、複数の地域や市職員が経験を共有できれば、一つの地域で得た工夫を他の避難所にも生かせる。子育て世代など、普段の防災活動に参加する機会が少ない人への働きかけも、市として取り組む意義があると考える。
地域主体の訓練で培われた経験を生かしながら、市の責任で確かめるべきことを検証する。大東市の実施方法を参考に、訓練で出た意見を設備や運用の見直しまでつなげる取組を、武蔵野市でも考えたい。