
宅配便を自宅ではなく、地域の拠点で受け取る。
そんな仕組みを武蔵野市でも展開できないかという話を、株式会社Every WiLLから伺った。
最初に聞いたときは、要するに街中に大きな宅配ボックスを置くという話だろうと思った。
しかし、話を聞いてみると少し違った。
同社が展開する「トリイク」は、建物の空きスペースなどを活用し、地域の荷物をまとめて受け取る拠点をつくる仕組みである。
配送事業者は複数の荷物をまとめて拠点に届け、利用者は自分の都合のよい時間に取りに行く。
一般的な宅配ロッカーの場合、利用できる宅配事業者やECサイトが限られていることがある。
一方、トリイクは特定の宅配事業者やECサイトに限定せず、さまざまな荷物を受け取れる仕組みを目指しているとのことである。
自宅で待つ必要もなく、玄関先に荷物を置いておく必要もない。
対面受取りでも置き配でもない、第三の受取り方というわけである。
宅配便を受け取るのも案外大変である
インターネット通販の普及によって、宅配便は私たちの生活に欠かせないものになった。
私も通販を利用するので、宅配便なしの生活に戻れるかと聞かれれば、かなり難しい。
しかし、荷物が届く時間に自宅にいられるとは限らない。
時間指定をしても、その時間帯は何となく外出しにくい。
少しコンビニに行っている間に限って不在票が入っていたりもする。
だからといって、置き配ですべて解決するわけでもない。
以前、戸建てに住む市民の方から、「玄関先に荷物が置かれていると、留守であることが外から分かってしまうので嫌だ」という話を聞いたことがある。
言われてみれば、そのとおりである。
荷物そのものの盗難だけではなく、家に誰もいないことを知らせる目印になってしまうのではないかという不安である。
置き配は便利だが、防犯上の理由から使いたくない人がいるのも当然だろう。
集合住宅には宅配ボックスが設置されているところも多い。
私の住むマンションにも宅配ボックスはある。
しかし、ほぼ常に満杯である。
宅配ボックスが設置されているのだから再配達は減りそうなものだが、荷物を入れる場所がなければ、結局は持ち帰ってもらうことになる。
設備があることと、実際に使えることは別の話である。
自宅での対面受取りにも、置き配にも、宅配ボックスにも、それぞれ便利さと不便さがある。
荷物を自宅まで届けてもらえるのは便利なのだが、その便利さを維持するために、配送する側にも受け取る側にも相応の負担が生じている。
再配達を前提にした仕組みは続くのか
特に問題となるのが再配達である。
一度届けた荷物を、同じ場所へもう一度運ぶ。
受け取る側としては、不在票やアプリから再配達を申し込むだけである。
しかし、配送する側にとっては、同じ荷物を持ってもう一度車を走らせなければならない。
再配達の時間帯にまた不在であれば、さらに持ち帰ることになる。
今後も宅配便の取扱量が増える一方で、ドライバーが同じように増えていくとは考えにくい。
ドライバー不足が深刻になるなかで、各家庭への再配達を前提とした仕組みをいつまでも続けられるのかという問題である。
そこで、荷物を各家庭へ一つずつ届けるのではなく、地域の拠点へまとめて届ける。
住民は通勤や買物などのついでに、その拠点から荷物を受け取る。
配送事業者にとっては配送先を集約でき、利用者にとっては在宅時間に縛られずに済む。
置き配のように、荷物を玄関前へ置いておく必要もない。
何が言いたいのかというと、荷物の届け方だけではなく、受け取り方を変えることで、物流全体の負担を減らせないかという提案である。
国が2026年3月に決定した「総合物流施策大綱」にも、公民館やコンビニ、飲食店、宿泊施設などを活用した「地域の受取拠点の整備」が盛り込まれている。
したがって、この考え方そのものは一企業だけのものではなく、国も今後の物流政策の一つとして位置づけている。
武蔵野市とコミセンは相性がよいかもしれない
今回の話では、武蔵野市内の公共施設やコミュニティセンターなどに受取拠点を設置できないかという提案もあった。
市内各地域にある施設を活用できれば、駅前だけではなく、住宅地にも受取拠点を配置できるという考え方である。
確かに、武蔵野市は面積が小さく、コミュニティセンターが市内各地にある。
地域の拠点で荷物を受け取る仕組みを試すには、比較的相性のよいまちなのかもしれない。
もう一つ、話を聞きながら面白いと思ったことがある。
普段はコミュニティセンターを利用しない人でも、荷物を受け取るためなら足を運ぶかもしれないということである。
コミセンの存在は知っていても、利用する用事がなく、中に入ったことがないという市民は少なくない。
荷物の受取りをきっかけにコミセンへ行き、そこで掲示物を見たり、地域の催しや活動を知ったりすることもあるだろう。
単に荷物を受け取る場所をつくるだけではなく、これまでコミセンと接点のなかった人が、地域とつながる入口になる可能性もある。
もちろん、荷物を取りに来た人が、そのまま地域活動に参加するとは限らない。
荷物を受け取って、そのまま帰る人がほとんどかもしれない。
それでも、まず一度足を運んでもらうというのは案外大きい。
物流の拠点が、地域との最初の接点にもなる。
この点は、武蔵野市で取り組む意味の一つになり得ると思う。
導入には整理すべき課題も多い
もちろん、話を聞いたからといって、武蔵野市への導入が決まったわけではない。
公共施設を民間事業者が利用するのであれば、施設本来の目的との関係や、他の事業者との公平性を整理しなければならない。
設置費用や電気代を誰が負担するのか。
荷物が紛失したり破損したりした場合、誰が責任を負うのか。
利用者の個人情報や防犯カメラの映像を、誰がどのように管理するのか。
荷物が長期間受け取られなかった場合はどうするのか。
実証実験の期間は費用がかからなくても、その後も続ける場合には誰が負担するのか。
確認しなければならないことは多い。
また、コミュニティセンターは、単に市が所有する空きスペースではない。
武蔵野市のコミュニティセンターは、地域住民による自主運営を大切にしてきた施設である。
市や事業者だけで決められる話ではなく、それぞれの地域の考えを尊重する必要がある。
荷物の受取りに人が訪れることで、施設側の管理負担が増える可能性もある。
実際に再配達や配送車両をどの程度減らせるのかについても、試してみなければ分からない。
利用者が荷物を取りに行く手間もあるので、誰にとっても便利な仕組みというわけでもないだろう。
だからこそ、最初から市内全域への導入を前提とするのではなく、実証を行い、利用状況や効果、施設側の負担を確認するという進め方になる。
受け取り方を変えるという発想
対面受取り、置き配、宅配ボックス、そして地域の受取拠点。
どれか一つに統一する必要はない。
生活の仕方も、住んでいる建物も、防犯に対する考え方も人によって違う。
それぞれが自分に合った受取り方を選べることが大切なのだと思う。
宅配便は、もはや日常生活を支えるインフラである。
しかし、そのインフラは、荷物を運ぶ人がいて初めて成り立つ。
荷物は今後も増える。
一方で、ドライバーが急に増えるとは考えにくい。
そうであるならば、これまでと同じ方法で各家庭まで何度も荷物を運び続けることを前提とするのではなく、受け取り方そのものを変えることも考えなければならない。
地域で荷物を受け取る。
一見すると単なる宅配ボックスの話に見えるが、案外、これからの地域物流と地域コミュニティを考える上で、重要な話なのかもしれない。