東京都のデータを読んでみた
東京都教育委員会が公表した評定割合から傾向を読み解く。

「あの学校は内申が取りにくい」という声
武蔵野市内の保護者から、ときどきこんな相談を受ける。
「あの中学校は、ほかの学校より内申が取りにくいのではないか」
定期テストではそれなりの点数を取っている。提出物も出している。それなのに思ったような評定が付かない。同じ塾に通う別の中学校の生徒と比べて、どうも納得がいかない。話を聞いていくと、だいたいこういう内容である。
ここでいう「内申」とは、中学校が付ける5段階の評定のことだ。都立高校の一般的な学力検査に基づく入試では、この評定が実際に点数化され、実技4教科は2倍して計算される。「たかが通知表」と片付けられる話ではない。
校長は「学校による差はないはず」と説明
以前、実際に市立中学校の校長に聞いたことがある。
その校長の説明では、定期考査の点数、提出物、そのほかの評価材料を一定のルールに従って数値化し、それを入力すると5段階の評定が自動的に導き出される仕組みになっているという。恣意的に評定を付けているわけではなく、共通の考え方に基づいて公平に処理しているため、学校による差はないはずだ、という回答だった。
もちろん、最後に教師の感覚だけで「3を4にする」といった付け方をしているわけではないのだろう。その説明自体は理解できる。
ただ、同じ計算方法を使っていることと、すべての学校で同じ評定結果になることは別の話だ。
どの試験や課題を評価材料にするのか。それぞれにどの程度の比重を置くのか。提出物の内容をどう評価するのか。「主体的に学習に取り組む態度」を何によって判断するのか。そもそも定期考査の難易度が学校間で同じなのか。入力後の計算が自動化されていても、その前段階には学校や教科担当者による判断が残る。
これまで相談を受けても、個々の成績や各校の評価方法が分からない以上、はっきりしたことは言えなかった。
では、実際に付けられた評定の分布には、本当に学校間の差がないのか。
今回、東京都が公表した数字を確認してみることにした。
東京都教育委員会は、武蔵野市を含む都内の公立中学校3年生の評定割合を公表している。
なお、発表は2026年3月で、令和7年12月31日現在の内申分布を示す。
この資料を使って、武蔵野市の数字を少し細かく見てみた。
武蔵野市全体では、特に厳しくない
資料には、武蔵野市内の6校が掲載されている。
ただし学校名は伏せられており、1番から6番までの番号だけが振られている。しかも番号は「順不同」とされている。1番が第一中学校、2番が第二中学校という意味ではない。ここは注意が必要だ。
公表された6校、9教科の割合を単純平均すると、次のようになる。
| 評定 | 武蔵野市6校の単純平均 | 東京都全体 |
|---|---|---|
| 5 | 12.7% | 12.3% |
| 4 | 23.6% | 23.1% |
| 3 | 47.0% | 47.3% |
| 2 | 12.4% | 13.7% |
| 1 | 4.3% | 3.7% |
| 5・4の合計 | 36.3% | 35.4% |
| 2・1の合計 | 16.7% | 17.4% |
武蔵野市では「5」と「4」の合計が36.3%。東京都全体は35.4%なので、武蔵野市の方が0.9ポイント高い。
反対に、「2」と「1」の合計は武蔵野市が16.7%、東京都全体が17.4%。武蔵野市の方が0.7ポイント低い。
平均評定に置き換えると、武蔵野市は約3.28、東京都全体は約3.27となる。ほとんど同じだ。
学校ごとの生徒数を加味していない単純平均なので、厳密な市全体の数字ではない。それでも、大きな傾向を見るには使える。
少なくとも、「武蔵野市の中学校は東京都全体より内申が取りにくい」ということはなさそうだ。むしろ、ごくわずかではあるが高い。
平均してしまうと見えなくなるもの
ただ、ここで終わってしまうと肝心なところを見落とす。
保護者から寄せられるのは、「武蔵野市は厳しい」という相談ではない。「市内の特定の中学校が厳しいのではないか」という話だからだ。
そこで、6校それぞれについて、9教科の評定割合を平均してみた。
| 匿名校 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 5・4合計 | 平均評定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1番校 | 12.1% | 18.4% | 50.3% | 16.8% | 2.4% | 30.5% | 約3.21 |
| 2番校 | 15.4% | 25.9% | 45.2% | 8.2% | 5.4% | 41.3% | 約3.38 |
| 3番校 | 11.3% | 24.6% | 48.2% | 13.2% | 2.6% | 35.9% | 約3.29 |
| 4番校 | 16.4% | 30.7% | 39.2% | 9.7% | 4.1% | 47.1% | 約3.46 |
| 5番校 | 10.7% | 23.5% | 48.4% | 10.1% | 7.3% | 34.2% | 約3.20 |
| 6番校 | 10.2% | 18.4% | 51.0% | 16.2% | 4.2% | 28.6% | 約3.14 |
これは、思っていた以上に凹凸がある。
「5・4」の割合には18.5ポイントの差
「5」と「4」が最も多い4番校は47.1%。半数近くが4以上だ。一方、最も少ない6番校は28.6%にとどまる。差は18.5ポイントもある。
平均評定でも、4番校は約3.46、6番校は約3.14。9教科の評定合計に置き換えると、単純計算で約2.8点の開きになる。
もちろん、この数字だけを見て「4番校は甘い」「6番校は厳しい」と決めつけることはできない。生徒の学習到達度が違うかもしれないし、たまたまその学年に得意な生徒が多かった、あるいは少なかった可能性もある。
とはいえ、同じ武蔵野市立中学校で、これだけ評定分布が違うのも事実だ。
市全体を平均すると東京都並みに見える。しかし、その平均の中では、かなり高い学校と低い学校が打ち消し合っている。保護者の感じている違和感を、単純に「気のせい」と片付けることもできない。
教科別に見ると、もっと差がある
さらに教科別に見ると、学校間の違いはもっと大きくなる。
数学で「5・4」が付いた割合は、最も高い学校で50.4%、最も低い学校で23.5%だった。差は26.9ポイント。
音楽では、最も高い学校が51.1%、最も低い学校が19.5%。31.6ポイントの差がある。
技術・家庭はさらに大きい。最も高い学校では「5・4」が53.3%、最も低い学校では14.1%だった。差は39.2ポイントに及ぶ。
同じ市内で、ある学校では半数以上が4以上、別の学校では7人に1人ほどしか4以上を取っていないことになる。
さすがに、ずいぶん違う。
特に実技教科は、都立高校の一般的な学力検査に基づく入試で評定が2倍換算される。技術・家庭や音楽の1段階の差は、主要教科の1段階より重い。だからこそ、保護者が敏感になるのも当然だ。
一方で、武蔵野市の英語は全体的に高い。「5・4」の割合は41.5%で、東京都平均の34.2%を大きく上回っている。武蔵野市の評価が、すべての教科で一律に厳しいわけではないことも分かる。
教科ごとの指導方法や評価材料、担当教員の違いなど、いくつもの要素が混ざっているのだろう。
近隣自治体と比べてみる
せっかくなので、近隣自治体についても同じ方法で計算した。
| 自治体 | 5・4の合計 | 2・1の合計 | 平均評定 |
|---|---|---|---|
| 国分寺市 | 42.1% | 9.6% | 約3.46 |
| 小金井市 | 40.1% | 11.3% | 約3.40 |
| 小平市 | 39.0% | 12.3% | 約3.39 |
| 三鷹市 | 37.2% | 14.8% | 約3.32 |
| 杉並区 | 36.9% | 13.8% | 約3.33 |
| 武蔵野市 | 36.3% | 16.7% | 約3.28 |
| 東京都全体 | 35.4% | 17.4% | 約3.27 |
| 西東京市 | 34.4% | 17.2% | 約3.26 |
武蔵野市は都平均並み、近隣市より低い場合も
武蔵野市は東京都全体や西東京市よりわずかに高い。ただし、小金井市、国分寺市、小平市などと比べると低い。
とりわけ国分寺市は「5・4」が42.1%、「2・1」が9.6%。武蔵野市との差は小さくない。小金井市も「5・4」が40%を超えている。
塾などで他市の生徒と成績の話をする機会があれば、武蔵野市の生徒や保護者が「こちらの方が取りにくい」と感じる場面はあるかもしれない。ただし、今回寄せられている相談の中心は、あくまで武蔵野市内の学校差である。
評定の高さだけで「甘い」とは判断できない
自治体間の数字だけで「国分寺市は甘い」「武蔵野市は厳しい」とは言えない。
現在の評定は相対評価ではなく、学習指導要領の目標に照らした絶対評価である。「5は上位何%まで」という決まりはない。実際に学習到達度が高い生徒が多ければ、5や4が多くてもおかしくない。
数字は事実だが、その理由までは数字だけでは分からない。
「評価が厳しい」のか、「到達度が低い」のか
学校間の評定差には、大きく二つの可能性がある。
一つは、同じ程度の学習到達度であっても、学校によって評価規準や評定への総括方法が違うという可能性だ。この場合は、内申を使う高校入試の公平性が問題になる。
もう一つは、評定の分布どおり、学校によって実際の学習到達度に差がある可能性だ。
しかし、それなら問題がなくなるわけではない。
市立中学校は、基本的に住んでいる場所で通う学校が決まる。子どもが学校の指導体制を選べるわけではない。同じ武蔵野市の公教育を受けながら、学校によって学習到達度に継続的な差があるとすれば、それもまた公教育の公平性に関わる。
評価方法の差なら、入試上の公平性の問題。
実際の到達度の差なら、教育機会や教育成果の公平性の問題。
どちらだったとしても、「学年によって違うから」「生徒が違うから」で済ませることはできない。単年度だけの差なのか、毎年同じ傾向が続いているのか。学力調査の結果と評定分布は一致しているのか。教科や担当者が変わると分布も大きく動くのか。そこまで重ねて見なければ、実態はつかめない。
保護者の実感を、数字でどう受け止めるか
今回の資料から、「武蔵野市の中学校は全体として内申が取りにくい」とは言えない。市全体の評定水準は東京都平均とほぼ同じである。
ただし、市内6校の間には、はっきりとした凹凸がある。
「5・4」の割合には18.5ポイントの差があり、平均評定を9教科合計に換算すると約2.8点の開きがある。教科別では、さらに大きな差も確認できた。
だから、「特定の中学校は内申が取りにくいのではないか」という保護者の実感には、数字の上でも検討する余地がある。
残念ながら、東京都の資料では学校名が伏せられている。相談を受けている学校が何番校なのか、この資料だけでは分からない。評定分布だけで、その学校の評価が不適切だと断定することもできない。
それでも、平均の数字だけを見て「武蔵野市は問題ない」と結論づけるのは早い。
市全体では都平均並み。だが、市内にはかなりの学校差がある。
今回のデータから、まず言えるのはここまでだと思う。
保護者の違和感を感覚論として退けるのでもなく、数字だけで学校を犯人扱いするのでもない。複数年度の評定分布や学力到達度と重ねて、もう少し丁寧に見ていく必要がある。
子どもの進路に直結する数字だからこそ、説明できる評価でなければならない。
関連リンク
出典:東京都教育委員会「都内公立中学校第3学年及び義務教育学校第9学年の評定状況の調査結果について」、中学校等別評定割合(個表)
著者:プロフィール
※自治体別・学校別の平均値は、公表された各校・各教科の割合を単純平均して独自に算出した参考値である。学校ごとの生徒数による加重平均ではなく、四捨五入の影響もある。