2026年10月14日、武蔵野市議会総務委員会の行政視察で奈良県生駒市を訪れた。調査事項は「市民によるシティプロモーションについて」。経営企画部広報広聴課から、「グッドサイクルいこま」と市民PRチーム「いこまち宣伝部」の取組について説明を受け、質疑を行った。

市民がまちの魅力を取材し、市公式のSNSで発信する。活動を通じて地域に知り合いができ、まちへの愛着が深まり、地域活動にも参加するようになる。生駒市では、情報発信と担い手づくりを結びつけて事業を進めている。その運営方法に加え、職員の負担や成果の測り方も調査した。
ベッドタウンとして発展したまちの課題
生駒市は大阪府と京都府に接する住宅都市だ。視察資料では人口11万5,455人。大阪都心部まで電車で約20分という交通の利便性と、豊かな自然環境を背景に発展してきた。
一方、資料によれば県外就業率は全国4位。市外で働く人が多く、仕事だけでなく休日も大阪で過ごす場合、住んでいる地域を知る機会は少なくなる。特に大人になってから転入した人にとって、まちへの愛着や人とのつながりをどう育てるかが課題になる。
生駒市は2015年度にシティプロモーション事業を開始した。当初は自然、交通アクセス、子育て・教育施策などを市外へ発信し、転入促進に力を入れていた。近鉄と協力した、生駒の暮らしを体験するバスツアーも実施したという。
その中で、市内の事業者から、自然や利便性は他のまちにもあるという指摘を受けたことが、魅力の伝え方を見直すきっかけになった。暮らしやすさの条件に加え、そこで暮らす人や活動に目を向けるようになった。
市は2019年から「グッドサイクルいこま」を推進し、「暮らす価値のあるまち」という都市ブランドの確立を目指している。
市民が自分の関心から取材する
2015年度に始まった「いこまち宣伝部」は、市民が取材先を選び、撮影・執筆を行うPRチームだ。記事は市公式FacebookとInstagram「グッドサイクルいこま」などで発信する。
視察資料では、11年間で166人が参加し、平均年齢は37歳。市民による発信は1,600件以上に上ると紹介された。今月からは12期生の活動が始まっている。
募集は例年5月。学校区や年齢、性別なども確認し、取材する地域や視点が偏りすぎないよう配慮する。2026年度の募集対象は18~49歳で、市外在住者も参加できる。市内在住者や市内に通勤・通学する人などを優先する条件がある。
取材先は行政が一律に指定せず、部員自身が決める。近所にできた店、地域で活動する人、手入れされた花壇、好きな風景など、その人の興味が出発点になる。
説明では、電車のある風景を投稿した事例が紹介された。本人は見慣れた景色で、記事にするほどの内容なのかと迷っていたという。しかし、自分が好きだと感じる風景を伝えたところ、想像以上の反響があった。
身近な景色も、見る人が違えば新鮮に映る。店を取り上げる場合も、商品だけでなく、店主の思いや、部員がその場所で感じた魅力を伝えることを大切にしている。
研修から公開までの運営
活動前には、編集者やカメラマンによる取材・撮影の研修を受ける。資料では、グループワークや投稿ルールの確認を含め、5回の研修が紹介された。
部員は取材先を市へ報告し、市が投稿日を調整する。その後、部員が連絡を取り、取材、撮影、執筆を行う。市が文章と写真を確認し、部員と調整したうえで、取材先にも内容を確認してもらい、市が公開する。
投稿の目安は、タイトル20文字程度、本文400文字程度、写真は最大5枚。SNSで見たときの読みやすさを考えたルールだ。
質疑では、取材先との認識の違いも取り上げられた。店側は店舗の宣伝を期待する一方、部員は自分が感じた魅力を書こうとする場合がある。その際は媒体の趣旨を説明し、内容をすり合わせる。コメントへの対応も基本的には事務局が担う。
部員の任期は1年間で、月1回の投稿が基本だ。毎年メンバーを入れ替え、新しい人を迎える。仕事や家庭と並行する活動なので、事情があれば投稿を休むこともできる。
任期を区切るのは、活動の終わりを見通せるようにするためでもある。また、特定の人に役割が集中しすぎないようにする意図もあるという。
卒業後も地域との関わりが続く
取材では、普段なら通り過ぎていた場所に足を運び、そこで活動する人と話す。何を大切にしているのか、どのような思いで続けているのかを知ることで、その場所との関係が変わる。
視察では、写真を通じた「イコマカメラ部」、親子が公園に集まる「公園にいこーえん」、こども食堂への参加など、地域との関わりが深まった事例が示された。取材した活動を手伝うようになったり、自分でも活動を始めたりする人がいる。
部員と職員はFacebookグループで日常的に連絡を取り、顔を合わせて話す「宣伝部カフェ」も設けている。取材先の相談や情報交換ができ、部員同士のつながりも生まれる。
卒業後も、希望すればSNSやプロモーションサイトの記事作成に関われる。数年後に再び書きたくなった場合も参加できるという。
プロモーションサイトでは、自宅で働く人、2拠点で暮らす人、住宅を改修して暮らす人なども紹介する。卒業生にとっては、より深く取材し、生駒の暮らしを伝える機会になる。
グッドサイクルいこまの成果をどう測るか
生駒市では、まちを薦めたい気持ち、地域の活動に参加したい気持ち、活動する人への感謝の気持ちを「修正NPS」という指標で測っている。
0~10点で回答を求め、8~10点の人の割合から、0~5点の人の割合を引く。平均点や賛成者の割合とは異なる指標だ。
市が公表する2023年8月の事業参加者108人への調査では、推奨意欲が−25.93から86.11、参画意欲が−34.26から67.59、感謝意欲が−1.85から89.81へ上昇している。
質疑では、こうした意欲の変化が、転入や定住にどの程度つながったのかが問われた。先方からは、心理的な変化は捉えているものの、移住・定住へのつながりを追うことには課題があるとの説明があった。
住宅都市では、大規模な住宅開発の有無も転入に影響する。住みたい人が増えても、住まいの選択肢がなければ転入は難しい。
市内の担い手を育てることと、市外の人にまちを知ってもらうこと。その両方が必要だという説明だった。関連する目標ではあるが、成果を測る際には分けて考える必要がある。
丁寧な運営を支える職員の仕事
シティプロモーションを主に担当するプロモーション係は、資料では3人。全体の日程調整と、部員を分担した原稿確認などを行う。
職員の負担について尋ねると、部員がなぜそこを取材したのか、何を伝えたいのかを受け止め、意図を尊重しながら文章を調整することに時間がかかるという説明があった。誤字を直すだけでは済まない。
取材先からの確認が遅れれば投稿日の変更も必要になり、職員の異動時には運営の考え方やノウハウを引き継ぐ必要がある。
部員の活動には謝礼がなく、取材に伴う商品の購入なども、本人が納得したうえで行うという。一方、行政には研修、相談、確認、調整を支える仕事がある。市民の自主的な活動を続けるためにも、担当する職員の時間と体制は欠かせない。
武蔵野市でどう生かすか
武蔵野市では吉祥寺の知名度が高いが、三鷹駅北口や武蔵境を含め、地域ごとに暮らしや活動がある。市民が日常の中で見つけた魅力を、自分の言葉で伝える機会をつくることには可能性があると考える。
写真が好き、文章を書いてみたい、近所をもっと知りたい。そうした関心から参加できれば、これまで地域活動に接点のなかった人にも入口ができる。取材を通じて人と知り合い、自分に合う関わり方を見つけられる点は参考になる。
ただ、武蔵野市には既に市民活動や民間の地域情報発信がある。行政が取り組むなら、それらとの関係を踏まえ、何を目的に、どこまで支えるのかを整理したい。発信件数だけでなく、参加した人や取材先にどんな変化があったのかも確かめる必要がある。
生駒市の取組から学べるのは、市民に発信を任せる方法と、それを行政が支える実務の両方だ。武蔵野市で検討する際も、募集や媒体の形だけでなく、参加者とのやり取りや卒業後の関係まで含めて考えたい。