武蔵野市で、妊産婦と1歳までの子どもがいる世帯を対象に、最大2万円分のタクシーチケットを配布する「ムーベビ」が始まった。

正式名称は「武蔵野市子育て世代外出支援事業」。
タクシーアプリ「GO」で利用できる電子タクシーチケットで、1回の申請で1万円分、対象期間中に2回まで申請できる。
妊娠中は、つわりや体調不良などで電車やバスでの移動が難しいことがある。子どもが生まれてからも、赤ちゃんを連れ、ベビーカーや荷物を持って移動するのは大変である。
そうしたときにタクシーを使いやすくするための事業である。
実はこの事業、もともとは「レモンキャブを子育て世代にも」という話から始まっている。
そして私は、2024年の予算審査から、レモンキャブに限定せず、一般のタクシーを活用してはどうかと提案してきた。
今回、その形で事業が始まったことになる。
レモンキャブを子育て世代にも
レモンキャブは、2000年から武蔵野市で運行されている移送サービスである。
高齢者や障害のある方など、バスやタクシーなどの公共交通機関を利用することが難しい市民の移動を支えている。
市内を歩いていると黄色い車をよく見かける。
小美濃市長は市長選挙の際、このレモンキャブを子育て世代にも広げることを公約としていた。
子育て世代の移動を支援するという目的には賛成だった。
ただ、本当にレモンキャブである必要があるのか、という疑問もあった。
2024年度予算審査でレモンキャブについて質問したところ、市からは、利用者からの評価は高い一方で、担い手の確保が課題になっているとの答弁があった。
レモンキャブは地域の運行協力員によって支えられている。
利用者を増やすのであれば、当然、運転する人も必要になる。
すでに担い手不足が課題となっているのであれば、子育て世代まで利用対象を広げたときにどうするのかという問題が出てくる。
そこで、一般のタクシーを活用できないかと質問した。
タクシーを使えばいいのではないか
レモンキャブが始まった2000年頃と現在では、タクシーを取り巻く状況もかなり変わっている。
現在はJPN TAXIなど、車椅子での乗車に対応した車両も増えている。
タクシー事業者には、すでに車両があり、ドライバーがいて、配車の仕組みもある。
レモンキャブの利用者を増やして新たな担い手を確保するより、既存のタクシーを活用する方法もあるのではないかと考えた。
もう一つ、議会で指摘したことがある。
レモンキャブは、地域の人が運転してくれることが安心につながる仕組みでもある。
一方で、知っている人に行き先を知られたくない場合もある。
病院へ行く場合などは特にそうだろう。
顔見知りであることを安心と感じる人もいれば、そうではない人もいる。
だったら、レモンキャブとタクシーを使い分ける方法もある。
実際、当時すでに武蔵野市が配布していた「子ども・子育て応援券」は、タクシーでも利用することができた。
子育て世代の移動支援にタクシーを使うこと自体は、新しい発想でもなかった。
制度上もレモンキャブでは難しかった
さらに確認していくと、レモンキャブをそのまま子育て世代へ広げることには制度上の問題もあった。
レモンキャブは道路運送法上の制度を利用して運行されているため、単純に子育て世代を利用対象に加えることはできない。
国と交渉して制度を変えるという方法も考えられる。
しかし、そこまでレモンキャブという方法にこだわる必要があるのか。
目的は、レモンキャブの利用者を増やすことではなく、妊娠中や子育て中の移動を支援することである。
そこで2024年度予算の賛成討論では、
「時間をかけて実現することよりも、現在、他自治体でも行われているタクシーチケットで対応することや、現在、市で配布し、タクシーにも利用できる子ども子育て応援券を拡充することなどでも、目的は達成できます」
と述べた。
その上で、
「今すぐできる政策として、タクシーを活用することを提案いたします」
と提案した。
2026年度予算で事業化
それから2年。
2026年度予算に、子育て世代への外出支援事業が計上された。
方法はレモンキャブではなく、タクシーとなった。
2026年度予算の賛成討論でも、
「子育て世代への外出支援で、タクシーを活用することは、会派としても提案してきたことであります。評価いたします。レモンキャブではなくとも目的は達成できますので、早期の運用開始を提案いたします」
と述べた。
そして実際に始まったのが「ムーベビ」である。
最大2万円分のタクシーチケット
ムーベビの対象となるのは、武蔵野市に住民登録があり、母子健康手帳を取得した妊産婦、または1歳の誕生日当日までの子どもがいる世帯である。
1回の申請で1万円分の電子タクシーチケットが配布され、対象期間中に2回まで申請できる。
最大2万円分となる。
チケットはタクシーアプリ「GO」で利用する。市の案内でも「妊産婦さん、1歳のお誕生日までのお子さんがいる方へ」として、合計2万円分のタクシーチケットを配布することが示されている。
市が新しい車両を用意するわけではない。
新たに運転手を集めるわけでもない。
既存のタクシーと配車システムを使って、子育て世代の移動を支援する仕組みとなった。
結果的には、かなりシンプルな制度になったと思う。
2万円という金額はどうか
では、2万円で十分なのか。
例えば1回2,000円のタクシー利用であれば10回分となる。
妊娠から子どもが1歳になるまでの期間を考えれば、日常的にタクシーを利用できる金額ではない。
しかし、この事業は日常の交通費をすべて負担するものでもない。
つわりがひどい。
子どもの体調が悪く病院へ行く。
大雨でベビーカーでの移動が難しい。
荷物が多く、電車やバスでの移動が難しい。
そうしたときに使える2万円と考えれば、助かる家庭はあるだろう。
まずは2万円で始めて、実際にどの程度使われるのかを確認すればよい。
申請した世帯数、実際に使われた金額、利用回数などを見れば、2万円が多いのか少ないのかも分かってくる。
1歳までという対象期間についても同じである。
事業を始めた以上、今後は利用実績を確認する必要がある。
「GO」を使うことが前提
もう一つ確認しておきたいのが、タクシーアプリ「GO」を使う仕組みであることだ。
今回配布されるのは紙のタクシーチケットではなく、GOで利用する電子タクシーチケットとなっている。
スマートフォンを日常的に使っている人にとっては便利だろう。
タクシーを呼ぶところから支払いまでアプリで完結する。
一方で、行政サービスとして考えれば、スマートフォンやアプリを使うことが難しい人が利用できるのかという問題は残る。
対象が比較的若い世代だから問題ない、と決めつけることもできない。
実際に運用を始めて、申請や利用の段階で困る人がどの程度いるのか。
ここも確認が必要だろう。
レモンキャブはどうなるのか
今回、子育て世代の移動支援がタクシーになったからといって、レモンキャブが不要になったわけではない。
レモンキャブは、高齢者や障害のある方などの移動を20年以上支えてきた。
利用者からの評価も高い。
一方で、担い手不足という課題もある。
そうであるならば、一般のタクシーで対応できる部分までレモンキャブに担ってもらうのではなく、それぞれの役割を考えた方がよい。
レモンキャブでなければ利用が難しい人もいる。
一般のタクシーを利用できる人もいる。
ムーバスで移動できる人もいる。
徒歩や自転車で移動できる人もいる。
同じ移動支援でも、必要なものは人によって違う。
一つの交通手段ですべてを解決する必要はない。
提案から2年で実施となった
2024年の予算審査で、レモンキャブの子育て世代への拡大について質問した。
その中で、担い手不足の問題やタクシー事業者との連携について確認し、予算討論ではタクシーチケットの活用を提案した。
2026年度予算で事業化され、今回「ムーベビ」として実施となった。
もちろん、私が提案したからできた、という単純な話ではない。
そもそも子育て世代の移動支援は小美濃市長の公約から始まっている。
市役所でも検討が行われ、議会でも議論があり、その中で当初のレモンキャブからタクシーへと方法が変わっていった。
結果として、当初考えられていた方法とは違っても、子育て世代の移動を支援するという目的は実現した。
制度としては、良い制度になったと考える。
あとは、この制度をしっかりと周知し、対象となる方に使ってもらうことが重要である。
どれだけ良い制度をつくっても、知られていなければ利用されない。特に今回のムーベビは、妊娠中から子どもが1歳になるまでと利用できる期間が限られているため、必要な時期に情報が届くことが重要となる。
母子健康手帳の交付時や出生後の各種手続など、対象となる方と市が接する機会を活用し、確実に制度を知らせていく必要がある。
まずは多くの対象者に知ってもらい、必要なときに使ってもらいたい。